特別企画 ゲートイン×K.ヤマモト ダービーを語る

──今週はダービーということで南関公認予想士のゲートインこと吉冨隆安さんと、K.ヤマモトさんに来ていただきました。

山本「どーも、どーも」

師匠である吉冨氏の前ということもあって、大柄な山本氏も今日はどこか少年のような雰囲気を醸し出していた。

吉冨「山ちゃん久しぶりだね」

一方の吉冨さんも場立ちのときとは打って変わって穏やかな様相である。
と思ったのも束の間、山本氏が、

山本「吉冨さん最近どうですか?」

と聞いた瞬間、

吉冨「僕は憤慨してるんだ!」

と、いきなり切り込んできた。

山本「え、どうしてですか?」

吉冨「この前的場が7000勝あげたでしょ?」

山本「はい」

吉冨「そのときNHKでも取り上げるだろうと思ってニュース見ても取り上げないの。

それでつまらない稀勢の里の怪我だとかね、僕はそのとき思ったんだけども、

やっぱりメディアは本当に真の価値のあるものを取り上げて、世論をリードしていくっていう一番大事な姿勢を忘れちゃって、むしろマーケットに迎合している。

7000勝ってのは歴代2位のすごい記録なのね。それを取り上げないで、ヤフーニュースなんて水泳の田中雅美が再婚しましたという、なんと愚かなことかと」

そう熱く語る吉冨氏の話にあっという間に引き込まれてしまった。

吉冨「みなさん、一番大変なスポーツ選手って何だと思います?」

吉冨「我田引水じゃないけど、僕はもう地方競馬のジョッキーだと思ってるのね。

仮にスポーツはみんな練習量は一緒だとしましょう、お客さんの数も一緒だとしましょう、お客さんから受ける重圧の部分ね、これも一緒にしましょう。危険度は騎手のほうがあるけど、そこは譲歩しましょう。

でもあらゆるスポーツがせおってないものを競馬のジョッキーは背負ってる。

それは馬主の利害、調教師のプライド、厩務員の情熱、この3つを背負ってるんですよ。
その中でも地方競馬のほうが大変なのは労働単価が違うから。
大晦日の除夜の鐘が鳴るころまで乗って、また元旦から乗るんですよ。
あらゆるスポーツの中で南関東のジョッキーがいちばん大変、それなのに的場が評価されないんですよ。ゲートインのおっさんは怒り心頭だと、そう書いといてください」

──はい、書かせていただきます。次にお二人の出会いについてお聞きしたいのですが。

山本「当時ね野球をやっててね、川崎球場でバイトしてたんだ。隣に競馬場があって、野球がシーズンオフのときは、競馬場の売店にビール入れたりしてたの。そこに吉冨さんがいて、話聞いてるだけで面白いじゃん。そしたら後ろの紙にどんどん的中の印がついていくわけよ。それが最初。それから毎日通うようになった」

──吉冨さんから見たヤマモトさんはどうでした?

吉冨「好青年だったよ、礼儀正しいし」

そう吉冨氏に言われると強面の山本氏がどこか照れくさそうにしてるのが印象的だった。

──続いてお二方の予想理論というのを伺いたいと思います。 タイムではなく、実際に走った距離というのをベースにしてらっしゃるんですよね。


吉冨「僕も山本氏も、声高に何年も、競馬は時計じゃない、もちろん血統でもないと、通った距離とレースの優劣だと、何年叫んできてrるんだけど誰も取り上げない。
世の中は相変わらず時計で時計で成り立っている。人気はみんな時計で成り立っているの。数字で買う人とか雑多な要素はあるけど、とにかくマーケットは、オッズを形成するのは時計ですよ」

吉冨「競馬はゆっくり行こうとしてるわけだから、ね。陸上競技じゃないんだから。 速い時計を争ってるんじゃないんですよ」

吉冨「だからレースの優劣をつけるというこの方法論が、我々いちばん正しいと思ってるんだけども、 我々はそれを証明しなきゃいけないんだけども、世の中は認めようとはしなくて、まあ認められない。
それはさっきの的場文男が真のレジェンドなのに、僕はイチローよりもすごいと思ってんのに、それすらも評価されない。

今日は久々に山本と会ったんだから、ダービーで、二人で、しばらくして会ったんだから、お互いの技量も少しは向上してるだろうし、二人の英知を絞って今度のダービーにぶつけてやろうではないか」

山本「渋いなあ、涙出てくるよ」

吉冨さっきの的場の話なんだけど、調教師が的場ー的場ーって絶叫してるね
そういうものが、今度の中央競馬のダービーにも、厩務員さんも調教師さんも含め、渾身の仕上げをして、一世一代の勝負をするわけじゃない。
これ昔テレビに出たときネタで使ったんだけど、ダービーは生まれてきた3歳馬の生存をかけた試験ですよ。人間にこのレベルの試験はない。東大の試験なんて茶番ですよ。一生でも受けられる。
これはダービーしかないレースですよね」

──いよいよ今週はそのダービーですね。まずは皐月賞についてですが。

山本「確かに時計は早いんだけど、みんな前に行った馬が残ってんだよ」

吉冨「僕はこのダンビュライトがいいと思うんだけど」

山本ダンビュライトはきさらぎ賞3着でしょ、このへんのレベルから考えると、俺は皐月はスローの前残りって判断したんですよね。
あとはスワーヴリチャードか。これも皐月賞の段階ではいらないと思ってたのね。共同通信杯の2着がエルトディーニュだろ。これもレベルは低いと思ってたんだよな」

吉冨「ヤマちゃんのダービーの本命は何なの?」

山本「俺はレイデオロペルシアンナイトです」

吉冨ペルシアンナイトはイン突いてアルアインダンビュライトにも交わされそうだっただろ、あれは最短距離を通ってるから、それでその後ろにいたのがカデナだろ。
僕は距離とペースを数式に当てはめるんだけど、ペルシアンナイトは向こう正面で脚を使ったにしてもほんと最短距離だからね。大外を回ったダンビュライトが上で計算したんだよね」

吉冨「そうだ、そろそろ勝負服着ようか」

とカバンの中から場立ちの衣装を取り出す吉冨氏。実は今日のために勝負服を持ってきてくれたのだ。

吉冨「これ着ないと当たらないから」

と戦闘態勢に入る吉冨氏。


山本「吉冨さん、アルアインはどうです?」

吉冨「これはいるだろ、初コースでど真ん中抜けたんだから。重馬場で不利もあったシンザン記念除けば4戦4勝じゃない。ヤマちゃんはアルアインいらないと思ったの?」

山本「はい。アルアインダンビュライトクリンチャー、皐月賞で前に行った組はどこにもいないと思った」

──お二人の見解が分かれましたね。皐月賞以外はどうでしょう。

山本「プリンシパルのダイワキャグニーは強かったけど、これもエルトディーニュが4着だろ。そうでもないと思うけどな。」

──青葉賞はどうでしょうか。アドミラブルが1番人気になりそうですが。

吉冨「へー、これが1番人気なの」

山本「これ、前行った馬全部負けてるだろ。しかもも2着がベストアプローチじゃない 。
青葉賞は皐月、プリンシパルよりレベルが低い。時計じゃないんだよね」

──なるほど。お二人とも皐月賞がレベルが高いというのは同じですね。

山本「そう。で、皐月賞は前が残ってるから、皐月賞で前に行かなかった馬、と思ったんだけど、ここが吉冨さんと違っちゃったんだよな。」

──では皐月賞のVTRを見てみましょう。吉冨さんの本命はダンビュライトですか?

吉冨「皐月でいいだろう。帰結するのはね。
だから皐月でなるべく外を、たくさんの距離を走って追い上げた馬が強い。勝ったアルアインダンビュライトは、分析するとダンビュライトのほうが勝ってるんだけど、アルアインも初の中山、初の2000だったことを考えるとかなり強い。でもダンビュライトは右が(0.0.2.1)左が(1.1.0.0)で右回りに実績ないんだよね。今度は左でしょ。だからダンビュライトで行こうと思ってんだよな。
いずれにせよインを突いてこの2頭に勢いで交わされたペルシアンナイトのイメージを想起してもらいたいんだけども、あのあと400メートル延びたらインで埋没したペルシアンナイトカデナは到底この2頭に先着するとは考えられない。
だから人気になるであろう青葉のアドミラブルカデナペルシアンナイトは消すと」

山本「そうかもなー、ダンビュライトはたしかに外回ってる」

とVTRを眺める山本氏。

山本「あー修業が足りねえわ。日曜までにもう一回やり直すか」

と言って、手元の資料を見返した。


吉冨「ところでヤマちゃん、デムーロはアドミラブルに乗るって話だけど、ペルシアンナイトは誰が乗るの?」

山本「戸崎です」

吉冨「戸崎!戸崎は敵に回したくないなあ」

と言って周囲の笑いを誘うと、デビューのころから戸崎騎手を見てきた大井の帝王は少し懐かし気な表情を見せた。


──最後にダービーということで、何か一言あれば

吉冨「さっきの延長になるけど、人間にこれだけの試験はないないじゃないですか。さっきも言ったけど東大は一生で何度でも受けられる。

でもこれは一回。
ダービーは自らのDNAを残す、生存を賭けた戦いだよね。
それで敗れたら何も残せない。

だからこれはさっき言ったように、的場の思い入れもあったりとか、中央競馬は中央競馬で、騎手、厩務員、馬主の思惑、調教師のプライドとか、必死にこの日のために仕上げて決着つけるわけじゃない。

そうするとこれはもしかしたら、僕は宗教は何も信じてないけど、そういう何というか、遺伝子が決まるわけだから、大いなる宇宙の意志とか、自然の意志みたいなね、見えざるものがあって、その大きな力、大いなる力、意志ね、意志。が、もしかしたら勝つ馬を選んでるのかもしれないね。
ここでもし当たり馬券を握りしめたら、その人も祝福されるんじゃないかな」

山本「かっこいい、かっこいい吉冨さん」

吉冨「だってよく言うじゃない、ダービーは運でってね」

と言って顔をほころばせた。

吉冨「そういうものもあるかもしれないね。だってここまで来てよ、ここまで来て最後に決まるって言うのは、きっと何かそういうものがね。
『人事を尽くして天命も待つ』って言葉があるじゃない。ダービーはそれかもしれないね。 みんな精一杯仕上げるじゃない。天命よね。
競馬場でそれをしっかりと共に見届けよう」

そう言った勝負師の目はとても澄んでいた。

──今日はありがとうございました。

プロフィール

ゲートイン(吉冨隆安)

南関東競馬公認予想士。
その道40年の大ベテランで、実走着差理論の提唱者。
トークには定評があり、場立ちでは常に人だかりができるほどの人気者。
著書『最後の予想屋』


K.ヤマモト

1967年 神奈川県出身。
大井競馬公認予想師「ゲートイン」吉冨隆安氏の実走着差理論に惚れ込み師事。以来、公営からJRAまで視野に入れた予想を展開中。
02年大井競馬帝王賞で、僅か6点で10万馬券的中。1点3000円だったために一瞬にして300万円超の現ナマをゲットし注目を浴びる。

「競馬最強の法則」「内外タイムス」「グリーンチャンネル」など、これまでに雑誌、TV問わず競馬メディアでの活躍実績多数!

主な著書:「100円玉が1000万円になる3連単最強の法則」(KKベストセラーズ・「競馬最強の法則」3連単攻略プロジェクトチーム共著)